東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)37号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は、本願発明においては、引用例にないフイラメント状のジルコニウムを使用することにより特段の作用効果を生ずることを看過誤認したものである旨主張するが、この主張は理由がないものといわざるをえない。すなわち、引用例中に、被告の主張するように、「強力発光体、最もよい材料はZr、Tiである。またはAl―Mg合金でもよい。これを板状または線条にし着火薬の近くに設けるのである。」との記載のあることは、原告の認めて争わないところであり、右記載によれば、引用例には、写真用閃光球の強力発光体の材料として、フイラメント状のジルコニウムを使用するという技術思想が開示されていると解するを相当とする。原告は、ジルコニウムフイラメントを実際に使用するに必要な特性等の記載を欠くから、引用例中の「線条」の点は単なる空想である旨主張するが、実際に使用する場合に考慮すべき特性その他の記載がない一事をとらえて、右記載をもつて単なる空想と断ずることは、根拠のない独断といわざるをえない。また、原告の主張するジルコニウムフイラメントを使用したことによる特段の作用効果なるもの(前掲「請求原因四の<1>~<6>)も、成立に争いのない甲第一号証(本願の特許公報)及び本件弁論の全趣旨に徴すれば、あるものは燃焼材料の相違のもたらす当然の効果であり、その他必ずしもフイラメントジルコニウムを発光材料として使用したことによるものといい難いこと明らかであるから、本件審決が本願発明をもつて引用例の記載から容易に発明をすることができたものであるとする判断中において、この点について特に言及しなかつたことをもつて、本願発明がフイラメントジルコニウムを使用したことによる特段の作用効果を看過誤認したものとはいい難く、他にこれを左右するに足る証拠はない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
光を透過させる包被体と、大気圧以上の圧力で満たした燃焼を支えるガスと点火装置と、前記包被体内のフイラメント状のある量のジルコニウムより成る写真用閃光球において、前記のフイラメント状のジルコニウムと燃焼を支えるガスの重量との間の比がほとんど公知の化学当量的に平衡しており、かつ、燃焼を支えるガスの量が閃光球の内容積の一cm3当り、少なくとも約二mgであることを特徴とする写真用閃光電球。